夢と狂気の王国
前から楽しみだったので観てきたが、あまり面白くなかった。
まず、良かったというか感心した所からいうと、テロップが一切なかった。
そこには監督の志というか、自らに科した指針を感じて良かった。
画で勝負しようという事だと思う。
しかし、その画に関して、捨てカットというか風景が連発されていて、それが面白くなかった。
宮崎監督の狂気じみた画は1カットもなかった。夢を感じる画もなかった。
なんか、全編通して物事をまとめまくっているように感じた。
つなぎをまとめる為に風景を入れたり、喋っている最中に捨てカットに逃げたり、と。雰囲気に迫る場面が撮れていたならそんな事しなくても長回しで現場の雰囲気を入れればいいだろうと思う。
例えば、宮崎五郎とドワンゴ川上会長がバトルをしているシーンがあるのだけど、前後がなくてよく分からなかった。なんとなく雰囲気と話の内容は分かったけど、もっと見せ方があったのではないかと思ってしまった。
自分はあの大傑作の「もののけ姫はこうして生まれた」を観てしまっているので見る目は厳しくなってしまっていると思うが、あれに比べて内容が薄すぎると思う。
もちろん、作品時間が違いすぎて、本作品が同じ内容を表現できないことは理解できるけど。
泣く泣く削ったり短くしたシーンはいっぱいあるのだろうと思う。
「もののけ姫はこうして生まれた」はすごい。宮崎駿だけじゃなく、鈴木Pはじめ、関わったスタッフ一人一人のキャラクターまで伝わってくる。しかも、演出がそこを強調している訳じゃなく、あくまでプロジェクトを追っていくとそうなっているのが凄い。(鈴木Pは何かかっこよすぎて演出が入っているのかもしれないけどw)
あの作品ではアニメーションを作るという事を丁寧に追っていて、その行程一つ一つに理想を求める宮崎駿がまさに狂気じみていた。
この作品はほとんど捨てカットとかインサートカットがない。スタッフにインタビューをしている場面ではずっとスタッフの喋っている顔を映している。尺が無いと出来ない芸当だと思うけど、何が大切で、何を見せるべきなのか、演出がしっかりそれを理解して行っている。
この作品、6時間あるのだけどもう10回近く観ている。それで、毎回泣きそうになってしまう場面がある。
音楽を劇中に付ける為に録音をしているところで、宮崎駿と鈴木Pと久石譲がブースから生演奏されている音楽を聴いている。シーンはアシタカが村を出て行くシーン。
演奏が終わって、チェックをしていると満足そうな久石・宮崎。しかし、鈴木Pが一言、「素人意見なのですが、イメージアルバムのときのシンバルが派手な奴の方がよかったなと・・・」
久石がホントに〜?と言いながら楽譜を修正して指揮者に渡し再び演奏へ。演奏が始まり、問題の箇所に来ると、シンバルがジャーンと鳴る。この瞬間、3人の顔がそれぞれ何ともいえない笑顔に。宮崎駿はその笑顔のままうなずき、演奏終了後、「これで行きましょう。」
あの作品に迫っていく現場の雰囲気こそが、夢と狂気だと思う。